―Destiny―


奏汰の大きな手から解放された、あたしの小さな手。

いまだに残っている温もりは、タバコの火じゃなくて、奏汰の温度。



手が離れてから、あたしも奏汰もなにも喋ることができなくて。

ただ無言で、目の前を行き交う人たちを見ていた。



「――村岡?」



部活帰りと思われるジャージ姿の中学生の集団が通り過ぎたあと。

不意に名前を呼ばれる。



「槙村先生っ!!」



そこには、さっき【来来軒】の裏口に消えていった槙村先生が、ひどく驚いた表情で立っていた。


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