―Destiny―


「すぐって……」



慌てて玄関のドアのガラスに自分の姿を映す。

埃で濁ったガラスは、鏡の代わりなんか果たしていなくて。

身だしなみを整える意味もない。


とりあえず、肩まであるストレートの髪を手ぐしで整える。

バッグからリップを取り出し、さささっと唇に塗る。


あとは……あとは……。


制服のリボンを結びなおして、意味もなくスカートの埃をはらいのける。



「おっ、いたいた!」



【来来軒】のエプロンを身につけた奏汰が、あたしの目の前に現れた。


走ってきたのかな。

奏汰は息を切らせていて、額からはじわりと汗が流れている。



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