切なさに似て…
「ほら、鍵。持ってろ。この部屋は好きに使っていいし、今更柚果に見られて困るもんもねーし」

テーブルの上に置きっぱなしにしたままだった部屋の鍵を、箸を持つ手で指す。


昨日見た時には、確かに付けられていなかったキーホルダーが鍵に通されていた。

しかも、信浩の鍵の束に付けられたキーホルダーと同じ物。


「…うん。あ…」

ありがとう。と、言おうとした私の口に、何を思ったか信浩は箸を突っ込んだ。

ダシが染み込んだ、柔らかいうどんが喉を通る。


「ストップ!いいから、早く食えよ」

そう言って、「やっぱ、うどんサイコー」と、無邪気な顔をして笑った。


怪訝そうに眉を寄せた私に、早く食え。と、信浩は再び急かした。

渋々、箸を進めた私の胸の奥には、何とも言いようのないわだかまりだけが残る。


こんな時くらい“ありがとう”と言わせてくれてもいいのに。

私はいつ、信浩に“ありがとう”って言えばいいか、わかんないじゃない。
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