切なさに似て…
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小洒落た洋食屋さんで食事を終えるとチーフは、私が借りたばかりの独り暮らしするアパートまで送ってくれた。
『ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです。ありがとうございました』
ありきたりなお礼を述べ、一礼した私。
『…食事だけなの?』
上目使いで問い掛けたチーフの、細くした目に絡まる視線。
『え?』
なんて聞き返したのは、多分、わざとだった。
『俺が柚ちゃんを好きだって言っても、このまま帰す気?お礼は言葉よりも…』
動いた唇に目を奪われた瞬間、肩を抱かれ触れた唇。
咄嗟のことに大きく開いた目を、ゆっくりと閉じた。
この先もずっと。
私の知らない誰かが信浩の隣にいるのかと、考えるとやる瀬なくて。
誰でもいいから身を委ねたかったんだ。
忘れさせてくれる人なら、誰だって良かった。
信浩の代わりが。
下の名前が[伸宏]って
ノブヒロと読みが同じの、チーフだなんてバカみたいだけど。