切なさに似て…
そのあと、夜が更けるまで毎度のことながら信浩は言いたいことを話し、私も喋りたいことを話し明かした。

高校生活の話題が大部分を占めていて、肝心の核心部分には触れることはなかった。

ちょっと昔の切ない記憶を呼び起こした瞬間。このタイミングで、あの“約束”を思い出させるんだから、信浩ってやっぱり酷い奴だね?でも…。

切なくてやるせないけど、話に付き合ってあげるよ。今までそうしてきたんだし、これからもそうするし。


「…お前、風邪ひいた時くらい学校休めよ」

「だって、帰りたくなかったんだもん」

「そーやって、バイトが休みの時だって、街中フラフラして時間潰してたよな。そーいう時にここがあるんだろ」

「何か、利用してるみたいじゃん」

「いいだろ、利用したって。SNSやるよりよっぽどマシだろ。わけのわかんねー、変なとこ意地張りやがって…。お前は最初っからそーいう女だった」

そうだね。だから今だって、素直に受け取れないんだよ。


それには敢えて触れず、下手な返しもできず、軽く流すしかなくて。

「…高校の時の信浩は、お父さんみたいだったね」

「もっとなんかあるだろ、何だよお父さんって」

「じゃあ、お兄ちゃん?」

「どっちも…、現実味ねーなぁ…」


確かに現実味がない。私たちの場合、お父さんって例えは明らかに間違ってるし、お兄ちゃんはいないから想像みたいなものだし。お父さんでもなくて、お兄ちゃんでもなくて。

信浩は私の彼氏みたいだったよ、何かあれば私を連れ出してくれて傍にいてくれて。


そんな…、彼氏みたいな存在だった。
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