切なさに似て…
一駅分歩けば表側だけ、赤茶色をした陶磁器でタイルメントされたマンションが見えて来た。

近くで見れば見る程、その古めかしい外観は年代を感じ、所々ひび割れたタイルに張り付く白い結晶は、少しも似合わない。

タイルとタイルの間の目地に滴る雫が、激しい通り沿いに建つマンションの外壁の汚れを、洗い流してくれているみたいだった。


狭い入口に狭い廊下の中央にある階段を駆け上がる。

段を踏む度、マンション全体に響いているのではないかと思わせるヒールの音のせいで、ふくらはぎに緊張が走る。

「しぃーっ…」

心の中で足元に向かってそう呟いて、なるべく踵を付けないように。


そんなお会いしたことすらないマンションの住人に気を遣い、やっと最上階の4階へと辿り着いた。

階段を上がり、向かって左の一番奥、表札が掲げられている訳でもなく覗き穴もない青い鉄扉の前。


ドアのすぐ脇に設置された端正なボタンを押した。

ピンポーンッ、ではなく。

ビーッ…。と、間抜けなブザーが扉の奥で鳴った。

…今時、警告音にも使われないって。と、毎回心の中で突っ込むのがお決まりだった。


これが一応、このマンションのインターホン。と言えば聞こえが良すぎる。
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