切なさに似て…
「辞めた…。って…」

「今日で辞めますと。先程、電話が来たのよ。制服はロッカーに入ってますって。
そういう話しじゃないでしょう!?制服はクリーニングに出してから返すだとか、辞めるにしても、前もって1ヶ月前から報告するものでしょう!?」

そうまくし立て、「そういう訳だからお願いね」と。

「最近の若い人は常識がないんだから…」

ぶつくさ言いながら、事務所の奥に引っ込んで行った。


白崎さん、辞めちゃったのか。

だからあんなに澤田さん、激怒してたんだ…。

辞めたいとは言っていたけど、まさか今日だとは思ってなかった。


ばれる前に辞めたってわけだ。

これから、どうすんだろう。


…私があんな話ししちゃったからかな。

それで辞めたのかな。にしても、突然過ぎる。

電話で退職を告げるなんて。せめてそれらしい挨拶くらいあってもいいのにな…。


考え巡らす思考を閉じようとするも。

このファイルの山を、なんとかしなければいけないわけで。

机の上に置かれた山積みのファイルを眺めながら、私は重たい息を吐き出した。


お喋りしていたら必ず怒られていたし。

遅刻もしょっちゅうだったし。

規定通りの格好はしないし。

鏡を覗き込み、くるくるヘアを指で弄る彼女の姿を思い浮かべる。


隣のぽっかり空いた席に視線を置き、それはそれで何だか物足りないと感じた。


彼女のいない事務所は穏やかで、倉庫から聞こえる機械のエンジン音と、カタカタと私の打つキーボードの音が響く。
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