切なさに似て…
天野さんは顔を覗かせ、事務所内を見回した。

「随分と静かだなー」

「そうですね。白崎さんいないと静かですね」

私は顔を上げ、パソコンのディスプレイの隙間からそう答える。


「長くは続かないだろうとは思ってたけど、こんなに早く辞めるとはなー」

「辞めたいって漏らしてはいましたからね」

急過ぎですけどね。と、付けたし私は苦笑いとも取れる笑みを零した。


「静かで仕事はかどるんじゃないのかい?」

「いやー…、微妙ですね。隣から聞こえてくるBGMがないとなんて言うか、調子が出ないんですよね」

そう言い、困ったようにこめかみ辺りを指でなぞる。


「あははっ、なるほどね。静か過ぎるのも困りもんだ」

そりゃいいや。と、豪快に笑い話しを続けた。

「新しい人来るまでは柚ちゃん1人か」

「そうなりますね、きっと。年度末なんで忙しいんですよ。今朝、与えられた仕事もあるし。今月中に終わらせる自信なくて」

私はまたこめかみ部分を人差し指でポリポリと掻いた。


「おっ?俺たちと残業パターンかい?」

「かも知れないですね、ほんと」

「あははっ、可哀相に。頑張ってな」

そう笑顔を向けられ、私も笑顔を作り。


「はーい、頑張ります」

そう返事をすると、天野さんは手を挙げ休憩室に消えた。


確かに、静かだし。とばっちりを受けることはないんだけど。

あの語尾を伸ばす口調とか、あのやる気のなさとか。


彼女の話しを聞いてるのが、地味に好きだったのかもなぁ。
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