切なさに似て…
信浩のいないマンションに帰ったとして、どうせいないなら帰らなくても同じ。そう思っていても、今日もマンションへと足が向く。


もしかして、外に出れば信浩の車が停まっているかも。

つまらない期待を抱いてしまう。


もちろん、車がある訳がなく。漆黒に覆われた視界の片隅に、寒そうな格好をした女の人が立ちほうけていた。


「立花さーんっ!」

そう私を呼び動いた人影に、肩が上がる。


目を細め、焦点を合わせる。街灯のオレンジ色の光に照らされた人物に驚き、口を半開きに開け放す。


「良かったー」

この黄色い声は…。

「白崎、さん?」

恐々と私の口から零れた言葉に、コツコツと軽やかな地面を蹴るヒールの音が近付いてきた。


「やだなー、もう忘れちゃったんですかー?」

彼女は近寄って来て私の腕を掴み取る。


「えっと…、結城さんなら、とっくに帰ったはずだけど?」

予期せぬ彼女の登場に頭が混乱し、鞄の持ち手をギュッと握り締めた。
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