切なさに似て…
ぽかーんとしている私に、信浩は言葉を続ける。

「電話くれりゃ、迎えに行ったのに」

その台詞に、私の眉が更に真ん中へと寄せ合った。


「電話…?」

電話って…。一方的に解約したくせに。繋がらないのにどうやって?


再度動いた口から聞き出したいことは、チーンとホールに響く電子音によって遮られる。エレベーターが目的の15階に到着したことを知らせた。


颯爽と先に歩きだし、引っ張られる腕には不思議と抵抗する気はなかった。それよりも、信浩が発した電話というフレーズの続きが聞きたかった。


「ね、電話って…」

ある扉の前で足を止め、ポケットからジャラっと鍵を取り出す。

私の問いには答えることなく、信浩は鍵穴にキーを差し込みガチャリと金属を擦らせた。
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