切なさに似て…
開いた扉の奥は闇に溶け、背中を押され雪崩れ込むかのように部屋の入り口に踏み入れる。

壁に備え付けられた電気のスイッチの、僅かなオレンジ色のイルミだけが光の存在を教えていた。

鍵を閉めた音を聞き、後ろから伸びてきた手によって玄関に明かりが点された。

フローリングの床は輝きを放ち、奥へと続くにつれ照明の光がグラデーションを描き出す。


「早く靴脱げよ」

と、催促され信浩の足元へ視線を移すと、すでに靴を脱いでいて、慌ててパンプスを脱ぎ部屋の中に踏み入れる。

あの古びたマンションとは違いがありすぎて、物珍しそうに辺りを見回していると、信浩は私の背中を押しながら、室内へと足を運ばせた。


パチっと音がして点けられた照明で部屋の様子が明らかになる。

ソファーにテーブル、テレビがあるだけのリビングは一人暮らしには十分すぎる広さで、すっきりとした対面キッチン。あまり生活感は伺えない。

それに、さっき一緒だった女の人はいなかった。
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