切なさに似て…
信浩はテーブルの上に腕を伸ばし、リモコンを手に取りなにやらボタンをいくつか押した。

すると、天井近くの壁に備え付けられたエアコンが作動音を立て始める。

徐々に暖かい風が送り込まれる部屋の中。きっと、寒くないようにという信浩の配慮。


不自然なほど優しく感じるのは、気のせいだろか?

こんなに気の利く奴だったっけ?なんて考えてしまう。

「なんか、変!何、急に…」

バサバサと拭われている頭を思い切り振りきって、その手を掴む。


「はぁ?何が?いいからじっとしてろ」

信浩は顔を顰め、一瞬だけ止まった手の動きはすぐに動き、私の頭を押さえ同じ動作を再開させた。


でも、よく考えてみれば、さりげないこの優しさは信浩本来のもので、急に変わったわけじゃないことは、私が誰よりも一番わかっているんだ。


信浩のことはずっと好きだった。

こんな風な恋人同士の、スキンシップとかまでは考えていなかった。浅はか過ぎる。


「やっぱり急には無理!」

「なんだよさっきから。何が無理なんだよ?」

信浩の難しい顔が目の前に近づく。


「変な気分、信浩と付き合ってるって、実感ない」

「そりゃそうだろ、まだ始まったばっかなんだから。少しずつでいいんだよ、急ぐことないだろ?俺らのペースでいいだろ」

さも当然と言わんばかりに、落ち着いた口調のせいかすぐに納得してしまう。
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