切なさに似て…
「そうじゃなくて…」

「ん?」

「なんで…、治には教えて私には言ってくれなかったの?」

率直な不満。やっぱり引っかかるのはそれ。


何も告げずに私の前からいなくなって。

なのに治にはしっかり伝えてあって、何も知らなかったのは私だけ。

不満がないはずがないじゃない。


「…言えるわけないだろ」

ゆっくりと開いた信浩の唇を追う。

その私の視線には気付かない信浩は僅かに遠い目をして、氷が融け切り薄い色をしたカシスオレンジのグラス一点を見つめる。


その様子に堪らず、私はすぐに口を挟む。

「その時はまだ、友達だったんだから言ってくれてもよかったのに」

「友達だと思ってたら言えただろうけど、俺は柚果のこと友達だなんて思ったことなかったから。多分…、初めて会った瞬間から友達とは思ってなかった」

面と向かって言われると、耳まで熱くなるくらい恥ずかしいことだ。


だけど信浩はしれっとした態度で、目こそ合わないけれど、とても冗談だとは思えない表情をしている。

「…可愛いげないし、すぐ他の男んとこ行くし」

そのまま一点だけを見つめる信浩は、目を合わせてくれないどころか、呆れたような口調で悪態をつく。
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