切なさに似て…
「鍵渡せば突っ返すし。香水に至っては箱にしまい込むし。ジッポは使い道ないかもしれんけど、ネックレスチェーンはつけてもよくねーか?柚果はいつもそうだよ、平気な顔して。俺の気持ち知っててわざとじゃねーの?とか思ってた」


「なに、が…?」

つい、言葉に出てしまった疑問形。


私の頭の回転が遅いのか、信浩の吐いた台詞がぐるぐる回る。それでも解読しようと必死に働かせるも、ちっとも理解できない。

きっと私は、まぬけ顔を晒しているに違いない。


「あの時はもう、柚果の前でなんでもない顔して、おかしくもないのに笑うなんて俺には無理だった。
どうしようもないくらい好きなのに、…柚果は俺のことなんてこれっぽっちも想ってない。
そう思ってたから、何も言わないでいたんだ。転勤のこと言ったって、柚果のことだから平然と、へぇー。九州って遠いねー。くらいのことしか言わねーだろ」

そこまで言い終えた信浩は、すっと立ち上がり。


グラスをひょいと手に取り、新しいの作ってくる。そう言ってキッチンへと影を消した。


へぇー。九州って遠いねー。

って?


…言うわけないじゃん。

何それ…。

バカにしてんの?


信浩の姿はこちらから見えないというのに、バカにされたような苛立ちに思わず、ちらっとキッチンへと視線を移す。

キッチンからはガラガラとグラスへ氷が入れられた音がしてすぐ、カラカラと今度は液体が注ぎ込まれ氷が鳴った。
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