切なさに似て…
柚果は荷物が少ない、身軽なヤツ。

そんなところも好きだなぁって、つくづく思っていると。


いじらしい声が上がる。

「絶対毎日電話してよね!」

「するする。柚果こそフラフラすんなよ」

「それは信浩でしょ!」

声を張り上げながら、少しずつ後ろ歩きで遠ざかっていく柚果。


フラフラしてんのはどう見てもお前だ。


「わかってるつーの」

お前しか見えてねえつーの…。と、小さく呟いた声は周囲の雑音に掻き消された。


荷物チェックのあとも、まだその場に残された俺の方を名残惜しそうに見ている柚果に。

メールなんて薄っぺらいやり取り、あえてすることはなく。俺はただ微笑むことしかできなくて。

搭乗口へと向かう柚果がずっとこちらへ手を振っている姿が、今もまだ瞼の裏に張り付いて離れない。


意地っ張りで、強気で、可愛げがなくて、冷たい冷めた女。

たげど、脆い。本当は弱くて、脆くて、ちょっと力入れたら、粉々に砕け散っちゃうんじゃないかって。それくらい、脆い。

逃げ出そうと躍起になって、解り合えないってわかっていながら、開けた世界に飛び込んでいって。

道なんかいくらでもあるのに、避けていながら、どういうわけか一番選んじゃいけない道を目がけて、一直線に走って行く。

自分から、わざと突き進んでんじゃないかって、本気か?って。

何度、バカなヤツと思ったかわからない。


柚果が背負った荷物は、俺が下ろしてやるって言ってやりたいけど。お前が自分で下ろさなかったら、前にも後ろにも進めない、意味ないんだよ。

俺は下ろしてやれないんだぞ?


あんまり、心配させんなよ。これでも、心配してんだぞ。わかってんのかよ?
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