切なさに似て…
行き着いた場所は、リフォームはされているみたいだが私の自宅と負けず劣らずのボロアパート。

大学生だと言うその男の、貧乏暮らしが伺える。


そんな生活感醸し出す部屋に通うようになったのは。

やっぱり、“好き”や“愛しさ”という感情とは別で。


一弥と全く同じ、スカルプの香りを纏い。

『待ってたよ』と、私を押さえ込む。

情事の最中に『愛してる』と、しわがれ声で囁いて。

毎週決まって土曜日に繰り返された営み。


その男との関係に終止符を打ったのは、一弥に告白を告げられたからじゃない。

『土曜日以外も会いたい。一緒に暮らそう』

と、言われたから。


高ぶる感情が一気に覚めた。

『ごめん。無理、もう終わりにしよう』

確か、そんな言葉を並べ立て。

私は2度と訪れることのない部屋を後にした。

罪悪感なんてこれっぽっちもなかった。

顔はついていればいい。

性格は人並みであればいい。


条件はその口調と仕草と香り。

捧げるのは一握りほどの“愛情”であって、共にする生活じゃない。


土曜日の晩だけで私は満足。

土曜日以外、誰も愛さない。

誰も好きにならない。

誰の物にもならない。


3年前の冬に契りを結んだあの日から。

頑なに守り続けている。


誰に、愛してると言われようとも…。


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