切なさに似て…
「おはよーございまーす」


更衣室の扉を開けた途端、向けられた元気な声に、ドアノブに手をかけたまま固まってしまった。

普段は遅刻ギリギリ、もしくは遅刻して来る白崎さんがいつになく私よりも早く着いていて、着崩しているとはいえ紺色の制服に包まれそこにいるから。

不必要に何度もぱちぱちと合わせる上瞼と下瞼。


まるで阿呆みたいに、口をぽかーんと半開きの私の様子を、不思議そうに彼女が見る。

「どうかしましたかぁー?」

「あぁ、っと。おはよ…、今日は随分早くない?」

そう言って、ようやく扉に背を向けそのドアを閉めた。


「早く来れば、結城さんと話すチャンスがあるかもーって思ったんでー」

と、壁にかけられた鏡を覗く白崎さんを横目に、私は自分のロッカーの前に立つ。


…そういえば土曜日、そんなことを言っていたっけ。冗談じゃなく本気だったんだ。


「あぁ…、なるほどね」

私は興味なさげに返答し、クリーニングの袋を破り始めた。


3セット分貸し出されている制服は週2回クリーニングに出していて、大概ロッカーに置きっぱなしにしてある。


鏡の前で念入りに身なりを調えていた彼女は、椅子の上に散らかしたメイク道具を手早くポーチにしまい込み、私の方を向いて「じゃー、あたし」と、口を開く。

「先に行ってますねー」

なんとも弾みながら背を見せると、軽やかに出て行った。
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