切なさに似て…
まだ時刻は7時半を回ったばかりだというのに、見たことのない素早い動きに圧倒される。

見えなくなった白崎さんの背中のあった一点を見つめ、思い起こす私に流れる穏やかな時間。


ゆっくりと制服に袖を通し、髪を束ねる様は余裕さえ見受けられる。

こうしてる間にも、彼女と結城さんは刻々と親密になっていっているだろう。


焦ったり、じたばたしたりなんて決してしない。


身支度を終え事務所へと姿を現す。

正面の窓の向こうには仲よさ気に話す、口元に手を添えた白崎さんと、手を首の後ろに回した結城さんの2人が硝子を通し私の瞳に映された。


嫉妬やヤキモチなんて感情はない。

不快感もなければ嫌な気持ちすらも生まれない。


もしかしたら自分の“彼氏”が目の前で奪われるかも知れないというのに、なんとも思わない私。


感性が鈍ってるわけではない。

単に、何とも思わないだけ。


冷静な視点で2人の姿を見ていると、案外お似合いだとさえ感じるから不思議だ。

このまま2人がくっついて、出来上がってしまえばいいのに…。


そう考えてしまっている私のことを理解できる人なんて、到底いない。1人を除いては、誰もいないんだ。
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