切なさに似て…
「だから何?」

冷え切った室内に響き渡る私の口から出た声。そのトーンの低さに自分でも驚きを隠せなかったのか、毛穴から湧き出る汗の冷たさに背筋が寒気立つ。



静けさを帯びた部屋に、身の毛がよだつような寒気と妙な緊張感が駆け回る。

それは顔も見たくなければ口も聞きたくない相手だからか。


それとも…。


血の繋がりがなくても一応は自分の母親で、係わり合いを持ちたくはないからなのか。

尤も、この人を母親だなんて思ったことは一度だってない。


灰が落ちそうなまで吸われたタバコを人差し指と中指の間に挟め、もう片方の手の平を上にそれに添えた。下を向いていた顔をほんの少し上がり、襖の奥へと踵を返す。


その奥で水が流れる音に混じって、ジュッという音がした。

大方、灰が連なったタバコの火でも消したんだろう。


「…部屋借りてるわけじゃないんだし、生活に困ってるわけじゃないでしょ?」

直ぐさま姿を容易に現して、意識的にかったるそうに投げ掛ける。

「ガスも電気も停まっちゃったしさ…、水道だけは生き残ってんだけど。困ってんだよね」

と、不気味な口を動かし言葉を紡ぐ。


その物ぐさは、さほど困っている様子とは見て取れなかった。

何と無く、言ってみようか…。もしかしたら…、あぶく銭にありつけるかも。

そんなところだろう。
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