切なさに似て…
襖を開け放したまま、閉めていたって淫らな卑猥な声は聞こえてくるのに、どっか神経おかしいんじゃない?

そう問い詰めたい衝動を頭の中で押さえ込み、勉強机に近づいた。


机の上には数学の問題集とノートが広げられ、2月の受験シーズンに相応しいスタイル。


『どこ受けるの』

レナが何処の高校に受験しようが大して関心はなかったけれど。そんなに勉強してどうする気だと、そっちの事に興味が湧いた。


『森高』

シャープペンを滑らす手を休めず、ボソッと答える。

『へぇ…』

実に面白そうに息を吐き。

『…ま、頑張って』

と、僅かな言葉を残し。

あたかも最初から私達の存在を消し、快楽を貪る背中を尻目に、湿っぽい空気が漂う部屋を後にした。


少なくともレナにとって、頑張ってだなんて私には言われたくはない言葉だったと思う。

外に出ると、息もできないくらいに風が強く地吹雪で雪煙が空を舞う。


息を飲み、さらけ出した素肌に白い粒がこれでもかとぶつかってくる、凍てつく寒さの中。


『森高か…。何も、私が通ってた高校受けなくたっていいのに』

声にはならない口を小さく動かし呟いた。
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