切なさに似て…
*****

軽やかにスキップなんてしながら学校から家に帰ると。

『今日から柚果のお母さんになる人だよ』

9歳になったばかりの私の前に何の前触れもなく現れた“お母さん”。


生みの母親が出て行ってから1年が経過したその日。『よろしくね』と、差し伸ばされた手に私は自分の手を差し出すことはなかった。


背中に背負っていたランドセルがずっしり重く、肩に食い込んでいた。


見事なまでの化粧を施し、その鮮やかな顔とは掛け離れた真っ白のサマースーツを身に包み、困ったように顔を顰めた12年前のあの人は、まだ肌にも張りがあって間違いなく今よりかは若さが伺えた。


物事が何もわからない顔をした3歳のレナを連れ、あの人は純粋な私の中にこともあろうか、土足のままで踏み荒らして行った。

*****


―それが12年前の夏から今も尚、続いている。
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