切なさに似て…
台所の流し台に乗せられた袋の中身を並べる。ガサガサとポリエステルのビニール袋が音を鳴らす。


すぐ近くでするシャワーの水音を聞きながら、土鍋に火をかけた。

白菜、長ネギ、鶏肉を切り分け沸騰している土鍋に放り込む。

和風ダシとコンソメ、醤油に塩少々を水に加えただけの至ってシンプルな味付け。


鍋が煮えたぎった頃、タイミング良く信浩がシャワーを浴び終え、湯気と共に台所の横にあるドアからスウェット姿で顔を出した。


ばさばさと簡単に髪を拭くとタオルを肩にかけ、冷蔵庫からビールの缶を手に取り、躊躇いなくプシュッとリングプルを指で押し入れる。


「ぷふぁーっ。あーっ、腹減ったっ」

と、腰に手を当て、そこら辺にいるようなオッサンみたいな声を上げた。


「ちょっと…、ぷふぁーっじゃないってば。テーブルの上片付けてよ。カセットコンロもセットしてね」

そう目を吊り上げ信浩の顔を見上げる私は、まるで奥さんみたいだ。

「はいはい。かしこまりましたよ」

仕方ないなと言わんばかりに、持っていた缶を置き、テーブルの上を片付け始める。


テレビ番組の雑誌やら、昨晩に飲んだと思われるビールの空き缶。

朝に飲んだまま置きっぱなしになっていたコーヒーカップやら、散乱していたコタツテーブルが本来あるべきその、正方形の形を取り戻して行った。

最後に綺麗に拭かれた黒いテーブル台は、照明の明かりが反射して輝きさえ見せ始める。
< 80 / 388 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop