春が来るまで…
一度だけ、ベンチに座って話したことがあった。




僕と喜美の間には、微妙な隙間があった。




僕は自分でもおかしいくらいドキドキしていた。




喜美の手は、ベンチの上に置かれていた。




数センチ手を伸ばせば、僕の手は喜美の手に触れることができた。




ドクン…ドクン…




ドクン…ドクン…ドクン…




心臓が僕を急かす。




早くしないとチャンスを失う。




行け!行け!僕の左手!!




意識すればするほど、僕の体は硬直した。




『行こっか♪』喜美がベンチから立ち上がった。




『うん』と情けない笑いを向けて僕らは歩き出した…。
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