春が来るまで…
プルルルル…




数回コールの後、『吉永でございます』と声が聞こえた。お父さんの声だ。




僕は心臓をバクバク言わせながら『昼間お邪魔しました、田中和樹です。喜美さんいらっしゃいますでしょうか?』とバカ丁寧に何度も何度も練習した言葉を震える声を抑えながら絞り出した。




お父さんは『やぁ。昼間はお疲れさん。ちょっと待ってな』と言うと保留の音楽が聞こえてきた。




僕は小さくため息をつく。




『もしもし?和くん?』電話越しの喜美の声…初めて聞いて、何故だかジーンときてしまった…。




『うん。僕。遅くなってごめんね』




『ううん。電話で和くんの声聞けるなんて嬉しい!夢みたい!』喜美が喜んでいる。僕たち似てるのかな?




『僕も今ジーンときてたとこ。今、部屋?』




『うん。部屋。ベッドに腰掛けてる』




僕はまだ見たことがない喜美の部屋とベッドを想像しうっとりする。




『僕は居間なんだ。電話ここにしかなくて…僕も部屋で電話したいよ…』




すると『照れんな照れんな!』とダイニングから親父の笑い声が聞こえた。




『…今の…お父さん…?』喜美が驚いた様子で聞いてくる。




『あぁ、親父。夕飯ときに母さんが親父に話してくれて、ビールとウーロン茶で乾杯した』と笑う。




『お父さん、大丈夫だった…?』




『全然平気。一応釘は刺されたけど、喜美のこと大事にするって約束した』




喜美は『…嬉しい…でも恥ずかし…』と笑った。




喜美の照れた時のリンゴほっぺを思い出す…。




『次…いつ会えるかな…?』僕はちょっと小声になって聞く。




『今すぐ会いたい』と喜美は笑う。




ぼくは『僕も』としか言えなかった…。子機付きの電話が欲しい…。
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