パラレルワールド
一樹とそんな話をしたのは、たしか1ヶ月、いやもっと前だったかもしれない。
そして今更どうして思い出したのかもよくわからない。
ただ目の前の現実から目を背けたかったのかもしれない。
一樹が、死んだ。
人ってこんな簡単に死ぬものなんだって思った。
昨日あんなに笑ってたのに?明日も会おうよって言った約束の今日はこんな形で
裏切られたんだ。
一樹は静かに眠っているようだった。あたしには眠ってるんじゃないかって思っ
た。だけどベッドの脇で、名前も知らない一樹のクラスメイトたちがしくしくと
泣いていたから、あぁ一樹は死んでしまったんだと思い知らされた気になった。
一樹の死因は交通事故だった。しかもただの交通事故じゃない。クラスメイトの
、その名前も知らない女の子を庇ったからだった。
その事実に不謹慎にも腹が立った。あたし以外の女の子を命懸けで守ったという
ことに単純に嫉妬した。死ぬときに側にいたのもその女の子だった。赤の他人と
も言えるような、子。
どうしてその子を守ったんだろう。代わりに死んでもあたしたちには何にも関係
ないのに。
「ごめ、ごめんなさ、ごめんなさいぃ………」
その子はあたしの目の前でずっと泣いている。ベッドの脇で膝を地に付けてわぁ
わぁと声を上げて泣いている。謝り続けている。
謝ったって、一樹は帰ってこないのに、
あたしはその子がうざくてうざくてたまらなかった。胸ぐらをつかんで一樹を返
してよと責めたかった。でも一樹は、きっとそんなあたしを望まない。
急に猛烈な吐き気がして、あたしは病室を出た。