Leliant ~母の名の下に~

「……さて、公務がある。これで失礼しよう。

 ジョシア、お前は今日と明日は公務に出なくていい。それから――」

 立ち去りながらファネリッジは振り向いた。

「アセリエート嬢との婚約は、破棄する。

 お嬢さん、馬鹿息子だが妻の形見だ。宜しく頼む」

 扉が閉まった後、沈黙が落ちた。

「……怖いぞ、アリスエルは」

 沈黙を破ったのはディオの呟きだった。

 しかも、「アセリエート」と呼ばれたことを知れば……まあ、卒倒してくれれば大人しくて良いか。

「明日の朝一番で乗り込んでくるな」

「いいさ。復帰した頃は嵐が去った後だ。
 なぁ、城下に出るか?」

 彼女の手を取って言い、来ない返事を待ってから、

「ディオ、お前も来るか?」
 乳母兄弟を振り返る。

「俺もそこまで野暮じゃない。二人で楽しんで来い」

「アリスエルによろしくな」
 部屋を出る間際に言うと、ディオは、冗談じゃないと言わんばかりの表情で扉を閉めた。

「ディオは、明日も公務だから大事です」

 ディーネがすっかり他人事の調子で言う。国王に文句を言うのには限界がある。怒りの矛先は、多分ディオに向くだろう。

「さ、行くか」
 親友を憂う様子も少なげに、彼女の肩を両手で掴み、ジョシアは言った。


◇◆◇◆◇

< 10 / 20 >

この作品をシェア

pagetop