Leliant ~母の名の下に~
「……さて、公務がある。これで失礼しよう。
ジョシア、お前は今日と明日は公務に出なくていい。それから――」
立ち去りながらファネリッジは振り向いた。
「アセリエート嬢との婚約は、破棄する。
お嬢さん、馬鹿息子だが妻の形見だ。宜しく頼む」
扉が閉まった後、沈黙が落ちた。
「……怖いぞ、アリスエルは」
沈黙を破ったのはディオの呟きだった。
しかも、「アセリエート」と呼ばれたことを知れば……まあ、卒倒してくれれば大人しくて良いか。
「明日の朝一番で乗り込んでくるな」
「いいさ。復帰した頃は嵐が去った後だ。
なぁ、城下に出るか?」
彼女の手を取って言い、来ない返事を待ってから、
「ディオ、お前も来るか?」
乳母兄弟を振り返る。
「俺もそこまで野暮じゃない。二人で楽しんで来い」
「アリスエルによろしくな」
部屋を出る間際に言うと、ディオは、冗談じゃないと言わんばかりの表情で扉を閉めた。
「ディオは、明日も公務だから大事です」
ディーネがすっかり他人事の調子で言う。国王に文句を言うのには限界がある。怒りの矛先は、多分ディオに向くだろう。
「さ、行くか」
親友を憂う様子も少なげに、彼女の肩を両手で掴み、ジョシアは言った。
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