Leliant ~母の名の下に~
夜。ジョシアは一人廊下を歩いていた。手の中で、もぞもぞと動く布包みを抱えている。
「我慢してくれ」
包みに囁くと、落とさないように用心しながら進む。
やがて目的の部屋に着いた。
「殿下。いらっしゃいませ」
女官が彼を中に入れる。
「ごめん。遅くなった」
彼を見るなり近づいてきた彼女に言うと、包みを差し出す。
彼女が受け取ると布が落ち、中からはふわふわの毛の子猫が出てきた。
驚いたのジョシアだった。予想もしていなかった効果があった。
彼女が、嬉しそうに笑ったのだ。
子猫を抱き、本当に嬉しそうにしている。
初めて会ってから船で十六日、この城で二日。今まで見たこともない笑顔だった。
彼にしてみれば、先程城下で猫の親子を見つけたときの彼女が嬉しそうだったので、喜んでくれればと大急ぎで手配してきただけなのだが……
「……気に入った?」
猫を抱いたまま、彼に身を寄せてくる。
「……そうか、良かった……」
猫をつぶさないように気をつけながら、そっと彼女を抱き締めた。この笑顔があるのなら声などなくてもいいと、本気で思っていた。
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