Leliant ~母の名の下に~
彼女が近くのリーリアントを摘んできた。それを墓標に置こうとした彼女の手に自分の手を重ねると、
「この娘(こ)……出身も分からないけど、父上はそれでも後押ししてくれます。勝手なところはありますけど……よく理解してくれていると思います。
本当に、結婚はしたいんです。ただ急すぎただけで……いえ、この期を逃さず、ですね」
ちらりと彼女に目をやると、親子の会話を邪魔しないようになのか少し後ろに下がっていた。
「実は、彼女、名前も分かっていないんです。でも、系図に載せる名前が要るので、贈り名しようかと思います。ディオに頼めばいい名を考えてくれると思うんですが……できれば……」
と、墓標の一部をずらした。石が動くようになっていて下には空間があった。
死んだら自分の骨をここに入れてくれと、ファネリッジが作った空間だ。
「母上が、俺や父上を愛してくださっているのは知っています。
できれば……彼女も一緒に見守ってください。お願いします」
中に、赤い石のペンダントがあった。
裏に名前が彫られたそれを手に取り、墓石を戻す。
「彼女を幸せにします。俺も幸せになります」
そう言ってから後ろを見ると彼女がいなかったが、どこにいるかはすぐに分かった。
見下ろすリーリアントの、背の高い花の中を進んでいる。
丘を降りて追いつくとペンダントを彼女の首にかけ、
「さ、帰ろう」
言って、彼女を抱き寄せて歩き始めた。
だが、彼女が足を滑らせて転ぶ。体勢を崩し彼も一緒に倒れた。
すぐに立とうとしたが、一瞬思考が停まった。彼女の顔が間近にあった。
息遣いが、聞こえた。
「…………――――!」
引かれるように、彼女に覆い被さり、唇を重ねた。
リーリアントの茂みが揺れ、真っ白な花びらが散っていた。
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