Leliant ~母の名の下に~
エピローグ~覇王の剣

 彼女は、白い花を眺めていた。

 群生する白い花。立つのは小さな丘。側には墓標。

 去年彼と訪れた場所。しかし今日は一人。

 彼も、彼女がここに来ているとは夢にも思わないだろう。この世界での文字を覚えた彼女は、一人自室で読書をしている筈だった。

 第一印象は良かった。意思の疎通が出来ぬ中、それでも彼の人となりは分かった。

 ――だからこそ。

 彼女は封印を破らなかった。

 永久に口を閉ざし、一人の人間に成り下がることを選んだ。

 ――それでいいと、思う。

 せめて彼の命が尽きるまでは。彼の妻として在ろう。

 彼は、覇王となることを望んでいない。ならば、その道は示すまい。

 彼は、必要としてくれているのだ。覇王の道ではなく、リーリアントという一人の妻を。

 ――それでいい。

 彼女の姿が、丘の上から消える。忽然と。
「リーリア様、お茶をお持ちしました」
 入ってきた侍女に微笑み、開いていた本を閉じる。

「ジョシア様が、午後に少し戻ってきて下さるとのことですよ」

 その一言に、彼女はとびきりの笑顔をうかべ、頷いた。








 リーリアント。リーリアント科の一年草。エルベット原産。茎は高さ約一・五メートル。葉は丸く、一箇所に三つ集中。春に、白い細い花びらを放射状に咲かせ、夏まで続く。別名エルベット・ティーズ。








 ―― Fin ――


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