Leliant ~母の名の下に~
「んで? オウタイシサマ? 噂は本当でございますか?」
「からかうなよ、ディオ」
会議室のような広い部屋――まだ人影はまばらである――で、年の近い茶色い髪の神官服の男にからまれた金髪の男がうるさそうにそれを振り払う。
「いいじゃないか、友よ。
聞くところによるとコレニアで出会い頭に口説いて誘拐同然に連れて来たって?」
「あ、……それはその……」
「んで? 名前が噂に出てないぞ? 何て言うのかな? ジョシア様? 花嫁は?」
ばつの悪そうに口ごもったのを照れと取ったか、ディオと呼ばれた男が更にふざけた調子で問い詰める。
「………………
……知らない」
「お~おう、知らない?
隠すことないだろ~? 減るわけじゃなし」
「……まだ聞いてない」
「ほ~ほう、名前聞く前にさらってきたってか」
「……言葉、通じないんだ。あいつ」
「…………は?
おい……冗談……だよな?」
言いながらディオは気づいていた。口の前に右手を当てるのはこの王子の悩んでいるときの癖だということに。
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