Leliant ~母の名の下に~
「………………
……阿呆」
たっぷり悩んだ後、ディオはそう呟いた。
ややあって嘆息し、
「もうそれしか言えんわ。
今の話、本当か?」
「……ああ」
「アホ」
頭痛を噛み殺した声で言う。
会議の後、二人は会議室横の小部屋に入り話し込んでいた。他に人の耳はない。
会議中に小声で話すという手もあったのだが、今回の会議の本題はいかんせんジョシアの外洋視察の報告だった。
「お前、今の話だけでいくつ法を破ったか知ってるか?」
「……悪かったな」
「奴隷商人から救出したのならまだしもな。買ってきたとは……。身元調査も意思確認もしてないし……。
そんなに刑務所入りたいか?」
「……問題あったのは分かってるよ……」
「い~や、分かっていない」
ディオはジョシアにびしっと指を突きつけた。
「もしこれが表に出れば、お前は王位継承権を失うどころじゃない。
少し考えれば分かるな?」
「……分かる」
言いながら部屋を出るジョシア。ディオが喚きながら後を追った。
二人は王城の西塔へ向かっていた。王族専用の塔である。
「いいや、ここでけじめをつけるべきだ。俺としてはお前の弾劾裁判を提言するね。次期大神官として裁いてやろうじゃないか」
と、西塔に入って暫く進んでからディオの声に反応したように扉が開いた。
「おや、馬鹿な声がすると思ったら、やっぱりディオ」
「母様。馬鹿はこいつです」
扉から出てきたジョシアの乳母に向かってきっぱりと言うディオ。
「こいつの犯罪は本当ですか?」
「私が見たわけじゃありませんよ。殿下本人からうかがっただけで。
あ、殿下。お嬢様はお部屋ですよ」
最後の言葉はジョシアに言い、そっちに行きそうになった彼を引き止める。
「お待ち下さい。こちらへ」