散弾銃プレアデス
気のせいではなかった、何かが起こる音がする。
波はおおらかに揺れていて、鉛色の空はやはり広かった。
「“憂国の士”?
………冗談言うなよ」
気を紛らわせたわけではなく、ふつふつと沸き上がった感情を抑えながら紺野は言った。
「国民を乗せた国家(ふね)を憂いて憂いて憂いて……挙げ句の果てにそれを沈めるなんて狂気の沙汰だ」
「…何が言いたいんですか?」
「キミは、上に立つべき人間じゃないってことだよ。
君臨する人間は、船だ。
自分に命を委ねた人間が居て、初めて自分が浮かぶことができる。
それが解らない奴は、
乗組員もろとも統べからく沈む」
言い切った紺野が、再びちらりと波間に目をやった。
もう、金属音は聞こえなかった。
少しの沈黙の後、
春樹が嘲けり笑って言う。
「何を言うかと思えば……これから沈む船の長に言われたって少し説得力に欠けますね、紺野さん」
「とばりは沈まない。
俺が居るかぎり沈まない。
国も、人間も沈めさせない。
………目の前で見せてあげるよ、春樹!」
紺野はくるりと背を向けると、甲板の端に位置する操作板へ手を伸ばした。