散弾銃プレアデス



気のせいではなかった、何かが起こる音がする。





波はおおらかに揺れていて、鉛色の空はやはり広かった。



「“憂国の士”?

………冗談言うなよ」



気を紛らわせたわけではなく、ふつふつと沸き上がった感情を抑えながら紺野は言った。


「国民を乗せた国家(ふね)を憂いて憂いて憂いて……挙げ句の果てにそれを沈めるなんて狂気の沙汰だ」




「…何が言いたいんですか?」




「キミは、上に立つべき人間じゃないってことだよ。


君臨する人間は、船だ。


自分に命を委ねた人間が居て、初めて自分が浮かぶことができる。

それが解らない奴は、
乗組員もろとも統べからく沈む」


言い切った紺野が、再びちらりと波間に目をやった。


もう、金属音は聞こえなかった。




少しの沈黙の後、
春樹が嘲けり笑って言う。

「何を言うかと思えば……これから沈む船の長に言われたって少し説得力に欠けますね、紺野さん」



「とばりは沈まない。

俺が居るかぎり沈まない。

国も、人間も沈めさせない。



………目の前で見せてあげるよ、春樹!」



紺野はくるりと背を向けると、甲板の端に位置する操作板へ手を伸ばした。










< 284 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop