散弾銃プレアデス



「…だってさ、最近のアンタはなんだか」

紺野の目線が落ちる。

「苦しいよ、葵ちゃん」










葵ちゃん、と呼ぶ人間は、安原に考えられる限り、紺野だけだった。

同期で入隊したが、隊長へと駆け上がった自分と親しく喋りながらも、何かしらの隔てを無く自分の名を呼んでくれる人間は少ない。


紺野利樹はそういった、数少ない人間だった。



「すまんな、利樹」






長い電子音が沈黙を遮る。

「……ソレだろ?」

安原は手にした機械のコードを引き抜く。ぶうん、と唸る音を上げた機械を紺野は指差した。



「国が機械を埋め込んでおきながら疎んでいる、“存在”しない女の子」

「───利樹」


紺野は目を伏せたまま、淀みなく言葉を紡ぎ、安原はそれを遮ろうとする。

じわりじわり。

涼やかな声は刃になって、安原の疑問を埋め立てた場所を開き始めた。



「人は飛んでいけないなんて条約には無いからね。

───平和の網の目をくぐり抜けるために精巧に造られた、“少女型戦闘兵”」


「───利樹ッ!!!」



空気の振動にも紺野は怯えず、驚くことすらしない。

そして、安原はその眼をじっと見つめていた。




───見抜かれている。




この手で行う行為への疑問を持つ自分も。その「兵器」を心から大切に思う自分も。



ふ、と優しい微笑みが紺野をとらえる。その主である安原は、紺野の手に収まったコーヒーの缶をぱっと抜き取った。


喉を鳴らして飲み切り、持ち主の手のひらへと元に戻す。



「ありがとう、利樹」





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