散弾銃プレアデス
「それで、えと、ミユキさんが服を選んでくれて、原さんが着ていけって言って……」
おどおどと説明するすばるは下を向いたままで安原に言った。
要領を得ない語り口ではあるが事細かに、確実に、すばるの説明は続く。
朝方の戦闘の後に《トリカゴ》での作業を終え、昼前に原に連れられ市街へ出かけたことまでは知っていた。
ようやく話が見えてきた。
「(…伸吾か)」
安原葵はちらりと入り口付近に佇む、やけに満足げな友の顔を見た。
「…どーよ葵。嬢ちゃん、なかなか可愛くね?」
原がすばるを気に掛けてくれているのは知っていたし、今朝の戦闘から半日も経っていないのだ。
そっくり戦闘の記憶が抜け落ちたすばるを見て、人当たりの良い原はおおかた虚無感にでも捉われたのだろう……安原はそう結論付けてつぶやく。
「すまんな、伸吾」
謝る安原に、原はあからさまにムッとした表情を見せた。
「それより言うことがあるだろーがよ」
海の底を撫でるような低い声音は、普段あまり見せない凄みを湛えて安原に届く。
「保護者ヅラしすぎだぜ、葵。
お前が嬢ちゃんを何より大事にしてるのはわかってるけどよ──……」
言葉のひとつひとつが心臓の深いところを容赦なくえぐるよう。
ただ原を見る安原の心の奥で、原の言葉はむくむくと肥大していく。
破裂しそうなくらいに勢いを持って。
「大事に抱えすぎて見えてねえモンがある」
俺がそうだったみてーにな、と原は言葉を締めた。
やけに小さな声だった。
がしがしとうなじをかいて、安原にちらりと視線をやった。
原伸吾は尊敬に値する、と安原は思う。
大空の如く広く、大海原の如く荘厳な男だ。がさつなように見えて、芯部分を見透かしてくる友人に比べ自分の凡庸さ───安原は自身に嫌気が差していた。
結局何も出来ないでいる自分。
すばるを護ることも、解き放つことも出来ないでいる自分。
すばるが喜ぶことも、してやるべきこともわからないでいる自分。
───自分だけが取り残されたままだ。