僕は彼女の事を二度愛していた
「うわあああああ・・・。」
突然の叫び声に、僕はたじろいだ。驚きすぎて、ローテーブルにすねをぶつけた。
「・・・いっ・・・。」
痛がっている場合じゃない。声の聞こえた方を見た。
僕は、両手で肩をがっしり掴まれた。身動きする事が出来ない。そして、まだ叫び続けている。
「うわあああああ・・・。」
男の顔が、僕の前にある。
そこまで近くなって、やっとわかった。
髭だらけ、やつれた顔、ボサボサの髪。だいぶ変わっていたが、男は加藤だ。
「加藤、落ち着け。落ち着けって。大河内だよ、忘れたのか?」
「うわあああああ。」
叫び声が少し小さくなった。ゆっくりフェードアウトしていき、叫び声が止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
息切れがすごい。それだけ、渾身の力で叫び続けていたのだろう。
「・・・はぁ・・・大河内・・・?」
「そうだよ、加藤。大河内だよ。やっと、落ち着いたか?」
「すまない・・・。本当にすまなかった・・・。」
「いや、いいんだ。勝手に入った僕も悪かったんだから。」
「勝手に?どうやって?」
「玄関の鍵、開いてたからな。お前、不用心だぞ。」
「あ、開いてた?玄関の鍵が開いてたって言うのか?」
また、呼吸が荒くなりはじめた。
「おい、どうした?加藤、大丈夫か?」
さっきまで何ともなかった加藤の顔が青くなり、滝のように汗が流れはじめた。
「加藤、加藤?」
歯を激しく打ち鳴らし、話がうまく出来ないようだ。
「あ・・・あいつ・・・だ・・・・・・。あ・・・い・・・・・・つが・・・来た・・・んだ・・・。きっと・・・・・・そう・・・だ・・・。」
「あいつ?あいつって誰だ?」
「・・・。」
「なぁ、加藤。あいつって誰なんだよ。」
「あ・・・あい・・・・・・つは・・・。」
僕はその時、加藤の瞳に、僕以外の誰かが映っているように見えた。
「う、うわあああああ・・・。」
叫び声と共に、加藤は気を失ってしまった。
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