僕は彼女の事を二度愛していた
思わず声に出してしまった。
「来た。」
明るい黄色のノースリーブが、僕の眼に眩しく映る。同時に、心臓がビートを刻み始めた。
(落ち着け、加藤の事を聞くだけじゃないか。)
そう言い聞かせようとしても、ビートは早まっていくばかりだ。
そのビートに合わせるように、小走りで彼女に近づいた。
「す、すみません。」
恥ずかしくて、とてもじゃないけれど、大きな声を出す事なんて出来なかった。僕は彼女のすぐ後ろに立ち、小さく声をかけた。
「はい・・・。」
彼女も小さな声で返事した。
「あの、加藤、加藤をご存じですよね?」
「は、はい・・・。あなたは・・・?」
「あ、ご挨拶が遅れました。僕、加藤と同じ会社の・・・大河内って言います。」
彼女はキョトンとした表情で、僕の事を見ている。僕はそんな彼女を間近に、あまりの可愛らしさに思わず見とれていた。
「それで、その同じ会社の大河内さんが、私にどんな用があるんですか?」
「あのちょっと聞きたい事があって、加藤の事。今って、時間あったりします?」
「すみません、これから用があるので・・・。」
「で、ですよね?朝から暇なやつなんていませんよね。」
彼女の可愛さと、当然の事を指摘され、僕はテンパった。頭が真っ白だ。次の言葉が形になる前に崩れていく。
「でも、用が終われば大丈夫ですよ。もしあれなら・・・これ、私の携帯番号なので、お仕事終わった後にでも連絡して下さい。」
意外だった。清楚な感じのする彼女が、まさかはじめて会った僕に、抵抗なく携帯の番号を教えてくれるなんて考えもしなかった。
「あ、ありがとうございます。仕事終わったら、必ず連絡させてもらいますね。」
「はい、失礼します。」
彼女は振り返りそのまま行ってしまった。
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