僕は彼女の事を二度愛していた
駅の改札のすぐ右側に、彼女は立っていた。
「すみません。遅れちゃって。」
「気にしないで下さい。私も、さっき着いたばかりですから・・・。」
「そうですか。良かったぁ。」
「はい。すごい汗ですよ。」
彼女は、薄いピンク色のハンカチを貸してくれた。
走ってきた僕は、額から汗が滲んでいた。でも、僕の汚い汗で、彼女のハンカチを汚すわけにはいかない。
「あ、気にしないで下さい。こんなのいつもの事ですから。すぐに汗ひきますから。」
「そんな事言わないで・・・使って下さい。」
さらに手を差し出された。さすがに受け取らない訳にはいかない。僕は恐る恐るハンカチを受け取った。
額にハンカチをやると、顔の周りがいい香りに包まれる。
「あ、これ、洗って返しますね。」
僕は、鞄にしまおうとした。
「あ、大丈夫です。そのままで。」
奪い取られるようにハンカチは、彼女の手に戻っていった。
「そんな気になさらないで下さい。会って話そうって言ったのは私なんですから、これくらい当然です。」
「そ、そうですか・・・。」
なんとなく複雑な気分だ。嫌われているような気もするし、好かれているような気もする。
「それより、どこか落ち着いて話が出来る所に行きませんか?と言っても、この駅、乗り換えに使うだけで、ここら辺あまり知らないんですけどね。」
「じ、実は僕もなんですよ。乗り換えに使うだけで・・・。でも、そこにある店、なんかいい感じですよ。あそこにしませんか?」
僕と彼女は、小さなコーヒーショップに入った。
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