僕は彼女の事を二度愛していた
アイスコーヒーは、別の店員が持ってきた。やはり、僕の前にふたつ置いた。
「僕、そんなに喉が渇いているように見えますかね?」
「はい。だって、まだ汗だくですよ。よほど、一生懸命走ったんですね。」
まさか、彼女に逢いたくて、逢いたくて走ったとは言えない。それに、今はもう加藤の彼女なのだ。
「ほ、ほら・・・。遅れそうだったんで・・・。」
彼女に心の中を見透かされているような気がして、無理矢理はぐらかした。
「そんなに慌てなくてもよかったのに。私なら、ずっと、ちゃんと待ってますよ。」
そのやんわりとした言い方が、僕のツボだった。一瞬、理性が吹き飛びそうになる。
「そ、そんな事・・・言わないで下さいよ・・・。な、なんか、照れます・・・。」
「大河内さんって、わりとシャイなんですね。」
彼女は笑った。やばい。やばすぎる。
とにかく、話題を変えなければ、僕は終わってしまいそうだ。
「あ、あ、それより、加藤、加藤の事を教えて下さい。」
「はい、どんな事を?」
「言いづらいんですが・・・。加藤がおかしくなったのは、ご存じですか?」
「いえ。」
それから少し間をおいて、彼女は続けた。
「駅で話しかけられて、一度、会った事はあります。でも、それだけなんです。」
「それだけ?」
「加藤さんが、私の事をどう想っていたかは、だいたい想像がつきます。でも、それは加藤さんだけで・・・、私は、そんな風には想わなかったんです。」
「と言う事は、それから会っていない?」
「はい・・・。」
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