僕は彼女の事を二度愛していた

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「支配人、なんか怒鳴り声が聞こえましたけど、大丈夫なんですか？」
新人と思われる青年が、男に聞いた。
「あぁ、大丈夫だ。」
「いったい、何があったんですか？」
すると、店の裏から、こっそり客席を覗かせてくれた。
「あそこの黒いスーツの男いるだろ？」
「はい、いますね。」
「席をよく見てみろ。」
テーブルの上には、ワイングラスがふたつ置かれている。しかし、座っているのは、男一人だ。
「あれ、ワイングラスがふたつありますね。」
「どうやら、あいつの前には誰か見えているらしい。よく見ると、会話しているみたいだろ？」
「ホントだ。一人で、笑ったりしてますね。気持ち悪ぅ・・・。いったい、何なんですか？」
「いや、たまにいるんだよ。あんな客。彼女の姿が見えないのかとか、訳のわからない事を言ってくる輩が・・・。まぁ、それ以外は普通の客だし、支払いも問題ないから、ああやって席に案内している訳さ。お前も、その手の客が来たら気をつけろよ。」
「・・・そうなんですか・・・。わかりました・・・。」
青年は、世の中の広さを感じていた。
しかし、青年がこんな奇妙な客を相手にする事は、結局なかった。