僕は彼女の事を二度愛していた
はじめは、目の前にいる僕の顔がハッキリ見えた事だろう。
愛おしい僕に首を絞められ、得も言われぬ感覚に囚われる。人を愛する感情と死に向かう現実。それらが入り乱れると、まるで青リンゴのように甘酸っぱい。
それから、愛が憎しみに変わる。
甘酸っぱさは消え、代わりにものすごい苦みが襲ってくる。
しいて言うなら、子供の頃、母さんに飲まされた風邪薬に似ている。避ける事の出来ない苦みが、いつまでも続くようだ。
しかし、実際にはそんなに長くは続かない。
景色が逃げていく。
そばにいたはずの顔が、どんどん遠くなっていく。どんなに眼をこらしても見えなくなってゆく。
何も見えなくなった時、最期に声が聞こえてくる。
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