逃げ道なし！

"数日前"


その娘は疲れていたのか、田中の正面の席で、本を読みながら寝てしまっていた。


田中は寝ているその娘の顔を、見ているだけでよかった。



そしてその娘の降りる駅になってしまうと、彼女は目を覚まし、電車から出て行くのだった。



田中は気づいてしまった。


その娘は本を忘れて出ていったのに。


自分でも信じられないくらいだったが、田中は立ち上がり本を拾い上げ、その娘を追った。


ぎりぎり電車を飛び降りる事に成功し、その娘に本を渡したのだった。


彼女も田中の事を知っていて、それ以来、朝に会う度話をするようになったのだった。


田中が今読んでる本も彼女が進めてくれたものだった。



彼女と朝別れる時の、"また明日ね"と別れるのが、二人の決まり文句のようになっていて、田中は嬉しかった。



そんな"幸せな朝"は過ぎ去った。



そして、それは･･･････これから"いつも通り"の、誰とも話さない学校生活の始まりでもあった。