勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
動き出す歯車
彼が出立してから私の生活は毎日朱里さんと一緒に訓練のような日々だった。
でも辛くは全くなかった。
一番に自分自身身につけたかったのはこの時代の文字と筆で書くことに慣れることだった。
三成から時折届く文に早く返事が書けるようになりたかったんだ。
彼からは文と一緒にたくさんのお菓子が届いていた。
朱里さんと一緒にお菓子を食べてはお話をする時間もとても大切だった。
左近さんは毎日忙しく、顔を合わせる日も少なくなっていた。
「左近さんはお元気なのですか?」
「はい。それはもう...鬼のような形相で仕事に励んでおられますよ。」
声を潜め、いたずらっ子のような笑顔を浮かべて話す朱里さん。
彼女のその様子から左近さんがみんなを怒鳴りつけながら仕事をこなす様子が手に取るようにわかって私もクスリと笑って答えた。
「想像つきすぎて、なんだか可笑しいです。」
「そうでございましょう?」
朱里さんも着物の袖で口を覆いながらクスクスと笑い声を立てていた。
時がたつにつれ朱里さんは左近さんととても親しい仲だということも解った。
朱里さんは左近さんが好きなのだ。
左近さんには奥さんがいる。
でも体が弱く奥さんを大切に思うからこそ自分の側に連れてこない左近さん。
そんな左近さんの奥さんへの愛情を理解しながらも左近さんの身の回りをする朱里さんに一度尋ねたことがある。
「彼を独り占めしたいと思わないの?」
そんな私の質問に朱里さんは艶やかな唇を少し持ち上げて話してれた。
「私は左近様のお側にずっと置いていただいています。それだけで充分なのです。」
凛とした表情で言い切る朱里さん。
彼女の姿勢に私はとても感動した。