勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
野山を駆け回る少女。
少女の着物はとても粗末で、でもその笑顔はキラキラと輝いている。
あれは私、水害で流される前の私。
お兄ちゃんと出逢う前の私。
けっして裕福な家ではなかった。
でもお父さんとお母さんはとても仲が良く、私の大好きな人だった。
私の頭を撫でてくれる豆だらけのお父さんの手も荒れてガサガサとしているお母さんの手もとてもあたたかかったんだ。
幸せだった私の時代。
ベッドの上でまだ夢の余韻に浸っている私は携帯のけたたましい着信音に完全に起こされた。
部屋の中には私だけ。
ルームメイトの芽衣ちゃんは出かけているのかな?
家からは通えない理由で私と芽衣ちゃんは大学の近くに部屋を借りた。
二人暮らし。
家族は記憶が曖昧な私を心配して最後まで家を出ることに反対していた。
でも私は記憶が曖昧なんかじゃないんだ。
家族の知る紫衣と入れ替わった違う人間。
420年の昔に生きていた私と現代の紫衣とは違うんだ。
家族の中で紫衣になりきろうとする日々は緊張の連続だった。
だから家を出ることは私にとってはとても楽になれると一生懸命説得した。
手に入れた私だけの空間。
芽衣ちゃんと私の空間。
「もしもし...。」