勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
部屋の前で紅葉さんとただ月を眺めていた。
「お前のこと俺、結構気に入ってる。」
唐突に落とされた紅葉さんの言葉に驚きすぎて私は声が出なかった。
そんな私に紅葉さんはフッと息を吐き出しながら笑うと私の額を指で弾いてから立ち上がった。
「痛いよー。」
視界が滲んでくる。
痛さに涙が浮かんだ瞳で紅葉さんを睨みつけるようにしてみると彼はケラケラと屈託なく笑い声を上げた。
「意地悪紅葉!!」
「意地悪?それは最上の誉め言葉だね。」
何を言っても余裕の紅葉さん。
ほんっとに憎たらしい!!
「紅葉さんって気に入った女の子苛めて愛情表現するなんて子供だね。」
「男なんてそんなもんだ。」
「子供なんだから!!」
「お前にだけは言われたくない!!」
紅葉さんをからかってやろうと言葉を紡いでも全部余裕で返されてしまうのが悔しい!!
唇を噛み締めたまま恨めしそうに紅葉さんに視線を向けると紅葉さんは優しい瞳で私を見ていた。
「うた様になっても紫衣はそのまま変わらないでいてくれよ。」
そんな優しい瞳で声で...
紅葉さん、ズルイよ...。
言葉が出てこない私はコクリと頷くことで彼に応えた。
そんな私の頭をひと撫でしてから紅葉さんは背中を向けた。
「眠れなくても布団に入ってろ。」
私の返事も聞かずに部屋を離れていく紅葉さん。
彼の背中を見送ってから私は部屋に入った。
優しい紅葉さんに調子が狂う。
だからなのかな?
私は彼の言葉に従って寝支度を整えて布団に体を滑り込ませた。