勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
「ただ、少し問題がありましてね。
先方の要求に一人納得してくれない人がいて困ってるんですけどね。」
左近さんがチラリと紅葉さんを見ながら言葉を落とすと紅葉さんはツンと横を向いて視線を逸らした。
「どういうことですか?」
詳細がつかめない私は疑問を口にするしかなく、だけど紅葉さんの不機嫌な表情も気になってチラリと彼に視線を向けると目があった。
「俺だよ。
そうだよ、俺なんだ。」
「え?」
「清正と政則の奴、紅葉が侍るなら酒宴に出席すると条件を出してきたんだ。」
「だけど、今日は紅葉さんは女姿で出掛けたのではないでしょう?」
「以前に奥方様としてじゃなく紅葉として、アイツらをこの屋敷でもてなした事があるんだ。」
「それはお酒の席で?」
「そんなわけないだろう!
お茶だよお茶ッッ!」
紅葉さんの苛々はとても激しくて、彼の苛立ちの矛先は私に向かってる。
「怒んないでよ。
紅葉さんが嫌なら私が紅葉さんの代わりをするから。
ねッッ?」
気持ちを和らげるつもりで言ったのに、
「お前本当に阿呆だな。」
紅葉さんに溜め息をつかれた。
「紫衣は殿と約束があるのではないのですか?」
紅葉さんの言葉に言い返そうとする私を手で静止して朱理さんが言葉を掛けてきた。
忘れてたッッ!!
酒席に出るのに三成と四つ約束事があったことを思い出した私は口を両の掌で覆ったまま何も言えなかった。
「だから紫衣は阿呆なんだ。」
ポツリと呟く紅葉さんの言葉は私の胸にクサクサと刺さる。
言われても仕方ないけど必死なんだもん。
それに本当は男なのに女の姿で酒席に侍るなんて嫌だって思うのは当然だと思う。
二人に絞って酒席に招待するって言い出したのは私なんだし、責任だって感じるんだもん。