勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
苛つきを隠せない俺の口調に朱里はもう一度目を見開いた後クスクスと笑い始めた。
「感情的な左近様を見るのは初めてでございます。」
朱里の言いたい事は解りすぎている。
俺の心の変化を瞬時に感じ取れる朱里に隠し事など出来るはずがない。
「紫衣を連れてきた。俺は今から殿に話してくる。お前には俺がいない間紫衣の世話を頼みたい。」
淡々と話す俺に朱里は正面から言葉を返してきた。
「いいんですか?このまま左近様のお手元に置いておいても誰も紫衣のことは知るますまい。」
殿に紫衣を渡さなくとも俺の側にずっと...。
この半年考えないことはなかった。
何度も紫衣を俺の側から離さないという考えが頭に過ったのも確かだ。
「いいんだ。紫衣はきっと俺が囲って生活させても殿のもとに導かれる。そういう運命なのだ。きっと殿と紫衣は繋がるようになっているはず。俺はその橋渡し役に過ぎん。」
自分に言い聞かせるように言葉を吐き出して俺は朱里に背を向けた。
襖に手を掛ける俺の手に重ねるように朱里の手が置かれた。
朱里に視線を合わせてそっと口付ける。
そしてそのまま俺は部屋を出て殿の待つ部屋に足を進めた。