勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
「殿、左近でございます。」
襖の前で言葉を掛ける。
「入れ。」
簡潔に返ってくる返事。
俺は襖を開けて部屋に足を踏み入れた。
「久しいな。」
何度も殿からの呼び出しに応じず書状で全て済ましてきた俺に対する嫌味だろう。
「申し訳ありません。なにぶん養女を取り忙しくしておりました。」
「聞いている。鬼の左近を骨抜きにした娘とやらに俺も逢ってみたいものだ。」
逢わせるために連れてきたのだ。
紫衣は殿のそばに片時も離れず、これからは殿のために生きる娘なのだから。
未来が見え、きっと殿の力になってくれるはず。
そしてきっと殿の側にいても恥ずかしくない美しさも備わってくるはず。
男から見ても美しいと思える整った顔立ちの華やかな殿と太陽のような明るいあたたかみのある美しさを持つ紫衣はきっと誰もが羨む二人になるはず。
「はい。私の私室に控えさせております。今は朱里と一緒に。」
「ほう。朱里と...。」
殿は何かを考えるような仕草で指を顎に持っていった。
「左近、本気で大切な娘なのだな。」
そう言って殿はニヤリと笑って俺を見た。