勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
「殿、娘に逢って下さいませんか?」
これ以上殿にからかわれるのはたまらないと思い、俺は紫衣に逢うように殿にお願いした。
「逢いたいが…
なにぶん仕事がたまっておる、越後から帰ってからに…」
失礼を承知の上で俺は殿の言葉を最後まで聞かずに話を進めた。
「今日の内にどうしても逢っていただきたいのです。」
殿は俺の態度に眉間にしわを寄せていた。
気を悪くされたのだろう。
でも一刻も早く殿に紫衣を差し出さなければいけない。
紫衣は殿の為に時代を越えてまでここに今存在するのだ。
自分に何度も言い聞かせてきた言葉。
もう一度胸に言葉を刻み込んでから俺は殿に言葉をかけた。
「娘の名は紫衣といいます。不思議な娘できっと殿のお役にたつと思います。なにとぞ今日、今から紫衣に逢ってやって下さい。」
畳に額をすりつけたまま殿の返事を待った。
「左近、紫衣と言ったか?」
お叱りを覚悟していた俺に掛けられた声は殿には珍しく揺れていた。