勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
書状のやり取りだけで半年も城に出てこぬ左近めをどうやって苛めてやろうかと算段していた俺に左近は強引に娘に逢えと言ってきた。
「ふざけるな!」と怒りを口にする前に左近から掛けられた声に俺は何も言えなくなった。
紫衣。
左近の娘の名は俺はずっと探し求めていた娘の名だったからだ。
「紫衣…。」
名を口にするだけで胸に灯りが灯る。
あの紫衣なのか?
突然俺の前に姿を現し、また突然消えたあの幼い少女の姿が俺の頭をよぎった。
「その娘の事を詳しく話せ。」
期待を抱いてはいけない。
期待をしたぶん違えば落胆が大きい。
そう思った俺は逢う前に紫衣の話を聞くことにした。
胸の中に空いた穴をこれ以上は広げたくなかったのだ。
河原に行くたび味わう落胆を俺はもう味わいたくはない。
それ程までに俺はあの幼い少女の存在が大きかったのだ。
少女と過ごした時間はあたたかみ溢れる時間だったのだ。
紫衣を失って空いた胸の穴は紫衣にしか埋めれない。
左近の娘が紫衣であれば俺の胸に抱える闇に光が差し込むのだろう。
あの太陽のように輝く笑顔を見るだけで俺は救われるだろう。