勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
「この先に行ってはいけない。」
お兄ちゃんは細くて長い指で私が進もうとしていた橋を指差していた。
「あの橋の向こうにたくさんの人が見えるでしょ?お父さんとお母さんもいるかもしれない。
お父さんとお母さんを探しに行かなきゃ!」
駆け出そうとする私の手首を掴んで静かに首を横に振るお兄ちゃん。
お兄ちゃんの瞳はとても悲しそうで紫衣は手を振り払うことが出来なかった。
「名は何という?」
結局私はお兄ちゃんの隣に座ってぼんやりと橋の向こうに視線を向けていた。
そこにお兄ちゃんの低いけれど透明な声で話しかけられた。
「紫衣」
「年はいくつだ?」
「15歳。」
お兄ちゃんとの会話は続かなかった。
何時間も
何日も
何ヶ月も
もしかしたら何年も?
私は橋のそばでお兄ちゃんとただぼんやりと過ごした。
たまにお兄ちゃんがのぞき込んでいる水瓶の中を一緒にのぞき込む。
水瓶の中には私の知らない世界が広がっている。
「口惜しい……。
もう一度やり直せなら俺が乱れぬ世を作れるのに…。」